スタンリー・キューブリック監督の名作・・・といっても1971年公開の映画で、もうこの作品を知ってる方といったら50代以上のジジイババアか暗い映画マニアぐらいかもしれません。原作の本著(1962年作)を読んでから映画を・・・というのはむしろ少数派ではないかと思います(ただ、ブクログなどの感想を見ると映画を見る前に読んだという方が割といる 珍しいなあと僕は思うのだけど)。
全体主義に覆われた近未来でどうしようもない超暴力を振りかざす15歳少年アレックス。盗む、ぶっ壊す、暴行する、殺す・・・本著はアレックスが語り部として、アホっぽい喋り方で展開していきます。アレックスの超暴力も続かず、彼自身、管理社会に翻弄されていきます。アレックスが一番悪いが社会もずいぶん都合がいいというか。正直読んでいて気味のいいものではありません(善人は出てこない)。ちなみに映画もR18+指定。何にも隠れてないから親子でみるときは注意な。
本著の特徴として【ナッドサット】という人工言語が散りばめられています。映画の字幕では例えば「ドルークとデボチカとのインアウトの繰り返し」と表現されていて、ナッドサットの前後や映像でなんとなく意味を探り当てるしかないのですが、当著では訳者がルビをふってくれています。これを読み易いか読み難いか、人によって違うかもしれませんが、訳者も「原文のヘンテコな空気を伝えたい」と思案したうえでの手法であって、敢えて物語のあいまいさ・胡散臭さを纏わせていて、伝わるものはありました。
そして、一番の特徴なのかもしれませんが、本著はいったん初版で最終章まで書かれたあと、改訂版(原本、早川書房の訳本どちらも)では削除され、後発の映画と同じ結末を迎えます。本著では「著者が削除したのだろう(訳者あとがき)」と書かれていましたが、どうやらそうではなかったようです(著者の意図せぬ削除)。
2008年に、早川書房からは再度完全版が出版され、最終章も追加されました。ご覧の通り私の手元には両方あります。いや、図書館で古いほうを借りたんだけど、どうしても最終章が読みたくて。図書館には完全版が無かったので買っちまった・・・(古本だけど)。その最終章はまだ読んでいません。たった12ページ程度のそれを読むことで物語全体の印象が随分変わるのだとか。これから読みますが、紹介しません(笑)
余談ですが、ハヤカワノベルズって文庫サイズにしてはでかくて布カバーに入り切りません。あれってわざとデカくしてるのか、外国らしく大雑把なのか。いちいち「日本語翻訳権独占」って書いてあるのが仰々しい(LPレコードにある「決定盤!!」みたいなアナクロ感も漂う)。
※あと、アレックスが作家に身バレする展開、映画では「雨に唄えば」がキーワードになりますが、本著では別の理由となります。そんな違いを楽しむのもよろしいかと。