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読後感想「戦争はいかに終結したか」千々和泰明・著(中公新書)

 先日、映画「戦国自衛隊(1980)」を観ました。戦国の世にタイムスリップした自衛隊の小隊が武田信玄と川中島で戦うシーンがあります。戦いの終盤、隊長の伊庭三尉と武田信玄との一騎打ちとなり、拳銃で信玄を討ち取り劣勢を挽回し勝利します。どこをとっても無茶苦茶な展開。
 この戦闘行為をいち戦争と大きく捉えた場合、「国主・武田信玄が現場で死亡することで勝敗が決し終了する」という帰結になります(伊庭が信玄の首を掴んでいるとき、残った武田軍は完全に戦闘を止めていた)。

 戦国自衛隊という奇怪な例を出してしまいましたが、あらゆる物語では、国主の死亡で戦争が終結する展開は珍しくはありません。
 もちろん戦争の終結は物語のように単純ではないです。現状、プーチンがウクライナ、あるいはロシア内外の勢力に討ち取られる可能性は高くないし、プーチンが粛清されればウクライナ問題が解決するわけではないと思います。ウクライナ問題だけでなく、そもそも戦争が終結したという事実が重要ではなく、どのような状況下、条件で戦争が終わり、交戦した国がその後どうなるのか(どうなったのか)、戦争の「終結の仕方」を見極めなければなりません。
 

 当著では2度の世界大戦(二次大戦ではヨーロッパ戦線と太平洋戦争それぞれ)、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸・アフガン・イラク戦争の終結形態について分析しています。
 戦争終結は相手をコテンパンにやっつけるばかりが効果的ではありません。完膚なきまで叩きのめすには、味方も相当の犠牲を覚悟しなければならない。いっぽうでその犠牲を惜しんで相手に妥協・譲歩して停戦すれば、争いの火種が再び燻る可能性があります。「現在の犠牲」と「将来の危険」、今までの戦争がこの2つのどちらを重視して終結させてきたか、主に外交交渉の視点から振り返っています。

 私たちにとって最も身近な事例としては太平洋戦争(日本対連合国)の終結形態を考えることでしょうか。
 太平洋戦争は「日本がアメリカに完敗した」という結果に見捉えがちですが、圧倒的に有利に見えたアメリカもその犠牲も少なくはなかったし、ソ連の介入を許し、核兵器を2度使用して禍根を残しました。
 とはいえ、占領後も日本での反米行動は限定的であり、現在に至るまで同盟関係は維持されています。当初1946年まで予定されていた「日本本土決戦」も回避されました。アメリカは「現在の犠牲」と「将来の危険」の両面を見極め選んできたわけで、結果、成功も失敗ももたらしたのです。
 日本が種々の問題を抱えながらも70年以上にわたり戦争から回避できたのは、戦争終結の形態(将来の危険をより重視する)としては概ね妥当だったのかもしれないと思います(民間人の犠牲や、沖縄戦や南方諸島の占領政策など看過できない点もありますが、巨視的には終結形態としての重大な瑕疵があったとは思いません)。

 それにしても戦争の終結形態が様々であることは時として見落としがちです。
 湾岸戦争ではイラクをクウェートから撤退させたもののフセイン政権の継続を容認しましたが、その13年後イラク戦争では逆にフセイン政権を打倒しました。戦争を回避する方法を考えるのは当然重要ですが、いざ起きてしまった戦争をいかに終わらせるか、お互いの国や地域の存続のためにもっと論議される問題なのだと考えさせられました。


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by OuiOui1974 | 2022-12-10 12:15 | 本を読んで | Comments(0)

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