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読後感想「二十四の瞳」(壷井栄・作)

 子供のころから聞きなれた「二十四の瞳」、通して物語を追ったのははじめてのことでした。

 この作品の登場人物からは、子供も大人も、温かさ、冷たさといった人間らしさを感じました。無邪気な子供たちですら軽くない悩みを抱え、動揺し、そして時代の流れと対峙し、その多くが流されていきました。
 ケガで休養している大石先生のところへ1年生の子供たちが大人の目を盗んで集う展開こそは冒険的な物語でしたが、その後は兵隊入りに志願する子、進学どころか行き先もままならない子、行方をくらましてしまう子などの波乱が待ち受けます。戦争が終わり生き延びた「かつての子供」も様々な事情、辛さを抱えたままです。
 そして子供たちの感情を十二分に受けるかのように、大石先生は老いてもなお、涙を流してばかりいました。この物語は先生と子供たちの慈愛だけでなく「戦争とのたたかい」を経たうえでの一体感を帯びるかのようでした。

 私が物語を知らずに想像していた大石先生は「聖人」ような人物像でした。
 しかし実のところは教師としての自信を失くしたり、時に無神経に笑ったり、泣いてばかりの・・・一人前とは言えない、普通の人間でした。戦争という時流がなければ、お茶目で教師としての仕事を淡々とこなす女性、で終わっていたでしょう。そんな大石先生が涙を流すたび、子供たちへの様々な思いが重く伝わってきました。

 反戦文学は悲惨な話が多く、主義主張を受け取るのが重く億劫で、私は苦手です。しかし「二十四の瞳」は、単なる反戦からの視点だけで語り得ないものだと思うのです。
 著者が戦争をどういう思いで綴ったのかはともかく、この作品は戦争だけでなく、過去から続いた社会の在り方への疑問を提示しているように受け止められました。戦争に内包される非人道性は批判されてしかるべきですが、無謀な軍拡を盲目的に是認してきた社会こそ正していかなければならない、それは今も同じです。
 「二十四の瞳」に出てくるような、未来を夢見る子供たちを路頭に迷わせるようなことはあってはならない。大人も学校も、寄り添い育んでいける世の中に心を注いでいかなければ、と思わされました。


・・・と、書いてみたあとで思ったのですが
「二十四の瞳」って、今でも通じる内容なのでしょうか。
僕が子供のころは教員も左派が多く、いくつかの反戦的な物語を紹介されましたが
その頃(概ね40年前)と現在とでは、世界情勢も教員の考えも変わって
「二十四の瞳」に触れる子供たちがどれだけいるのだろう、と考えたりします。

戦争をどう捉えるか、それは大事なことだと思うけれど
戦争そのものの是非以上に
「良いも悪いも言えない」空気を社会が覆う危険性は、時代が変わっても残ります。
その意味で、ただなんとなく流されていった結果悲劇を生んでしまうのではなく
将来を生きる子供たちに悪の負債を残さない意味でも
「二十四の瞳」が訴えることは何か、ぜひ読んで考えてもらいたい
(それは子供でもあり、私たち大人でもある)、そう思いました。



読後感想「二十四の瞳」(壷井栄・作)_c0057821_16133684.jpg



あと、この講談社の本には「石臼の歌」も掲載されていました。
小学5年か6年の国語で習ったやつ。



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by OuiOui1974 | 2022-02-13 16:15 | 本を読んで | Comments(0)

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