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千曲川のスケッチ

「半ば緑葉に包まれ、半ば赤い崖に成った山脈に添うて、千曲川の激流を左に望みながら、私は汽車で上田まで乗った。上田橋・・・赤く塗った鉄橋・・・あれを渡る時は、大河らしい千曲川の水を眼下に眺めて行った」
8年近く信州に住んでいると
自分がどの地方で生活しているのかとかあまり意識しなくなりました。
便利なのか、不便なのか、という杓子でしか
その土地のことを考えなくなる節があります。
大人ってそんなものかもしれません。現実的。

そんな僕も、かつては信州に強い憧れを持っていました。
大学生になりたての頃、
図書館にあった島崎藤村の「千曲川のスケッチ」を手に取り
文字でしか知らない、信州の遠いほうにある千曲川の風景を思い描いていました。
岩波文庫版は少し難解な仮名遣いのままで
正直読みづらく、パラパラとめくる程度にしか読んでいませんでしたが
そのことが却って信州への想いを強くしました。

2年前に千曲川流域の小諸市に訪れた際、再び藤村の「千曲川のスケッチ」を思い出し
今度は比較的読みやすい、新潮文庫版を手元に置きました。
散文、あるいは藤村のいう写生文であって
短い文章に自然や日々の暮らしを
まさにスケッチするかのように書かれてあります。
一気に通読するよりも、拾い上げて読むのが楽しい作品です。


実際の千曲川は水害と治水を繰り返す歴史があって
1642年(寛保2年)には2800人もの犠牲者が出るほどの洪水(戌の満水)が起きています。
治水が発達したと思われた現代においても
今回のような目を覆う光景を見せつけられました。

川の流れは私たちに様々な恵みをもたらしてくれる一方で
時には暴れだし、命をも脅かす。
やり切れない思いがします。

いち早くの復旧とお住まいの方に平穏が訪れることを
願わずにいられませんが、
千曲川が脅威ではなく
暮らしとともにあるべき川の流れに落ち着いて
古くからの信州の姿を湛えてほしい、と思い願うのも
本当のところです。

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by OuiOui1974 | 2019-10-15 21:55 | 写真と話す | Comments(0)

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